はちみつの国スロベニア
スロベニアの面積は四国と同程度で、国土の60%が森に覆われ、北はアルプス山系、南はアドリア海を望む、水と緑と花の国です。人口は200万人、そのうち養蜂家の数は8000人で、なんと国民1000人に4人が養蜂家と言う、まさに養蜂家の国と言っても過言ではありません。

スロベニア養蜂の歴史は600年以上の歴史があります。古くは、養蜂の巣箱は木のウロや藁で編んだ籠が使われていました。その頃の養蜂は、巣に蜜が溜まると、硫黄を使って蜂を殺し巣を壊して蜜と蝋を取り出すとそれでお終いの使い捨ての養蜂でした。1796年、スロベニア出身のアントン・ヤンシャが、オーストリアの女帝マリア・テレジアの命により養蜂の指導者となります。アントン・ヤンシャは蜂の生態に関する深い知識と研究で、人と蜂が共生する近代養蜂を開花させます。カーニオラン(Kranjici)と呼ばれる箪笥の聞き出しがびっしり並んだような蜂小屋が作られるようになり、この冬の雪や寒さ、夏の暑さから守れる頑丈な蜂小屋は、今でもスロベニアで広く使われています。アントン・ヤンシャの書いた2冊の著書はヨーロッパの養蜂に大きな影響を与えて「養蜂家の父」と呼ばれ世界の養蜂家の祖となっています。つまり、スロベニアは近代養蜂始まりの国なのです。
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スロベニア原産 灰色の蜂 カーニオラン種(Carniolan)
スロベニアは灰色の蜂カーニオランの故郷です。腹部に緑に光る灰色の毛があることから、スロバニアの人々は愛情を込めて「灰色熊のカーニオラン」と呼びます。この蜂は、従順、勤勉でおとなしく、早く飛べて、人に対して非常に温和な蜂です。そして驚くほど早いペースで蜜を集めます。カーニオランは19世紀頃には中欧諸国の養蜂家に広まって行き、ミツバチの代表とも言える存在となりました。
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木造の蜂小屋カーニオラン
冬の寒さや、夏の暑さから蜂を守るために作られました。百年以上も前に、移動できる箱型の巣箱が世界中では主流となったのですが、スロベニアでは今でもカーニオランが多く使われています。スロベニアの人々にとってミツバチは、共に暮らす友人です。蜂は、乾いて暖かな巣箱で飼いたい、頑丈な屋根をつけて嵐や雪から守りたいと思っています。スロベニアでは蜂の死を人間の死と同じ言葉(逝く)で表現します。自然の完璧で精緻な営みを垣間見せてくれるミツバチに賞賛と尊敬の念を持っています。つまりスロベニア人にとっては養蜂は経済の為の産業ではなく生活そのものなのです。
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18世紀頃から、「巣門飾り絵画」というユニークな民族芸術が始まりました。蜂が自分の巣を間違えないように目印のために書かれたようですが、何より蜂を愛してやまないスロベニアの人々の心が表れています。元々、18世紀当時はオーストリア・ハンガリー帝国の一部であったスロベニアの農民は、家具やガラス器に絵を描く内職をしていたため、絵画の技術を持っていました。
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アントン・ヤンシャ(Anton Jansa 1734?1773)
スロベニアのブレズニカ(Breznica)で生まれたヤンシャは、青年時代は蜂を飼い、蜂に対する深い知識を持っていました。村を出て画家を目指し、ウイーンの美術学校に入学したあと1769年優秀な成績で卒業したのですが、当時のオーストリアの女帝マリア・テレジアがウイーン市内に養蜂学校を設立し、この学校の初代養蜂指導者にヤンシャンは任命されます。ここで、数々の養蜂の新しい理論と技術を確立してゆくことになります。病気の治癒の方法、雄蜂の生態など、今なお養蜂技術として通用する方法を発見していきました。今では、スロベニア人養蜂家は、世界中のはちみつ生産地で活躍しています。
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18世紀頃の「巣門飾り絵画」
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スロベニアでは、巣箱と住居が一体化している家が数多くあります。1000人に4人が養蜂家の国ですから、養蜂家はスロベニア国内全域で活動しています。そのため果樹園や農場で授粉する(ポリーネーション)用の蜂はスロベニアにはいません。それぞれの地域でそれぞれの季節の蜜を採取していることで授粉が自然に行われています。スロベニアのはちみつは年間2000トン生産されますが、スロベニア人のはちみつの消費量もに多い為、産業として大規模に輸出されることはありません。また、スロベニア人の多くが養蜂家であり、消費者である為、ハチミツの品質にはとても厳しく、また知識も豊富です。スロベニアの人々の厳しい評価のもと、世界トップクラスの高品質のはちみつが作られています。
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カーニオランの内側、巣箱は両方から開けることが出来き巣の様子を室内から見ることが出来ます。
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スロヴェニア養蜂協会が、スロベニア国内を細かくエリアに分けて採取するハチミツの種類。養蜂家の各クラブ(組合)ごとの活動範囲などを決めています。伝統的養蜂はもちろんですが、ロイヤルゼリー、プロポリス、アピセラピー(ミツバチ治療)などに関する科学的研究も盛んに国家規模で行われている為、世界的にも先進的な国のひとつです。スロベニアでは、蜂を環境サイクルのバロメーターと捉えていて、国土の環境を守る事に力を注いでいます。2003年には国際養蜂会議「APMONDIA」がスロベニアで開かれています。
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・アプリコットとクルミのはちみつ漬け
スロベニアの森の純粋はちみつは、クルミとアプリコットを魔法のようにおいしくします。
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